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  in  ネパール
     
        ネパール山中強制トレッキング  
          
 
 
 
 
8月の降水量が800mmを誇る超雨季のポカラで運よくヒマラヤ山脈を見ることができた私は次の目的地であるインドに足を向けることにした。ポカラで滞在していたアイスラ○ドGHの若オーナー「ジュチ」とも仲良くなり、国境の町スノウリ行きのバスチケットも彼に頼む事にした。

しかし、その気の緩みが思わぬ展開に!!

普段は「自称用心深い」私だが、好天が続き気分が良かったのだろう。
確かに彼は愛想も良く、対応も早く、ホテルの設備も眺望も申し分ない。しかし彼は金銭面の絡みで、すぐバレる嘘をつく習性がある事を私は途中から確認していたはずだったんだが・・・気の緩みとはまさにこの事。

彼は通常400〜500ルピーで行ける展望台までの料金を「800ルピー」と言ったり(指摘するとすぐ500に下がった)、チェックイン時に込々で交渉した料金を後日税金だとか言う理由で他の従業員を経由し追加代金を請求したり(これも指摘ですぐ訂正)、このバスのチケットにしても町の旅行会社で300ルピー(480円)にだったのに対し、彼は320ルピー!とちょっと上乗せ(指摘後やっぱり訂正)してきたのだ。

ここで気付くべきだったのだ。彼が世間で言う「いい加減」の部類に属することを。

購入時に彼が言った言葉。
・本来320だが、友達プライスで300にする。
・ポカラから国境(スノウリ)までダイレクトのツーリストバス
・朝はゆっくり8:30出発
・通常遠回りするルートが多いが、このバスは山中を抜けるので6時間で着く。他より3時間くらい早い

しかし実際守られたのは金額の300ルピーだけだった・・・

出発前日、彼が持ってきたチケットには6:45出発の文字が!
「時間が変更になった。まぁ時間は遅れるから7:00にホテル発でいいよ。」
今更仕方ないので若干早起きする事にする。


当日荷物を持ち7:00にフロントに下りると、ジュチはおらず頼んでいたタクシーの運転手が我々を急がす。
「早く早く!集合時刻は過ぎてるよ!」

なに?話が違う。・・・でも時間がすでに7時という事は現実なのでとにかくバスターミナルへ行く。
到着するとバスは我々を待っていたようで、荷物を屋根に乗せすぐ出発した。
この日もヒマラヤが綺麗に見えた。時間はなかったけど。

しかし何故か他にツーリストらしき乗客は見当たらず。現地人ばかりだ。
バスは出発後山道をぐるぐる登り、途中の村でドンドン乗客を乗降させる。

やっぱりローカルバスか・・・

・・・まぁこれも既に乗っているので仕方ない。今更戻って文句言うのも面倒だし

10:45頃山中の集落で早めの昼食になる。朝が早かったので特に問題なくダルバート(ネパールの主食でカレーみたいな料理)を食べる。
周りは山ばかりでどこを走っているか分からず、バスの乗務員にいつ国境に着くのかと聞くと、
「多分13時くらいかな。順調に行けば。」

順調に行けば予定通りだ。一安心してボーっと過ごすが、13:00頃山中のある集落にバスが10台以上連なって停まっていた。様子が変だ。

我々のバスも道の隅に停車する。数分すると現地人は続々とバスを降り、前に歩き出してしまった。

本当に様子がおかしい。するとバス乗務員がやってきて、

「ココから先はマオイストの地域だからバスのサービスはここまで。15km先にブトワルっていう町があるからそこで国境行きバスを捕まえてくれ」


ハァ?? 何? マオイスト? 歩き? 荷物は? 自分で持つの? 15km????


ここまで来て初めてそんな事を聞いたゾ!マジで〜!

※マオイストとは「毛沢東(共産)主義者」の意味で、ここ数年ネパール各地で紛争を起こしている反政府ゲリラ軍だ。数年前には首都カトマンズで戒厳令がしかれた事態にもなったが、現在は割と落ち着いている。

冷静に考えよう。
ここはネパールの山奥、観光地のトレッキングルートではないただの山奥。しかもマオイストの潜伏地域。

え〜〜〜〜〜!マジで!ここを歩くの?

と言っても始まらないので再び冷静に考える。

考えれる選択肢は3つ。
@このまま15km荷物を担いで歩く。しかし私の荷物は30kgの超特大・・・。
Aこの集落に泊まって状況が良くなり通行できる日を待つ。しかし明日通れる保証無し。
Bバスで6時間かけてポカラに戻り、こんな仕打ちをしたジュチを一発殴る。

聞くとどうやらこの不通は昨日今日始まったものではないらしい。その証拠に周辺のマオイストが道を石やバリケードで完全に塞いでおり、現地人もいつもの事だよといいながら歩いていた。

そう、ジュチは知っていたのだ。そして安いルートのバスチケットを手に入れ、それを高値で売っていたのだろう。どおりでポカラ市内の旅行会社で聞いたバスの時刻じゃ無いと思った。現地人に聞くとこのルートのローカルバス代金は200ルピー以下らしい。
さらにポカラには沢山居たはずのツーリストが全くおらず、結局この日に出逢った外国人は2組だけだった。他のツーリストはどこかでその情報を聞いていたのだろう。多分普通のツーリストバスなら通らないハズだし。

やられた・・・

我々(インドに向かう日本人3人)は現地人から道の安全を確認した後@を選び、トレッキング用ではない馬鹿デカい荷物を背負い歩き始めた。
雨季でヒマラヤトレッキングを断念したとはいえ、いくらなんでもこんな山奥でトレッキングする事になるとは・・・。

バス乗務員がひとり20ルピーの返金を我々に渡した。まさにこれを「はした金」というのだろう。

ブツブツ文句を言いながら進むが、正直無茶苦茶荷物が重くてシンドイ。
『持てる荷物は最大限持っていく。備えあれば憂いなし』主義のマイバックは長距離歩行向きではないのだ!
短距離歩行向き長特大バッグを背負った男。後ろ姿が切ない。

数十分歩くと、我々は次に来たバス乗客の団体に抜かれた。現地人は荷物が無いので速い。みんな大きい荷物をジロジロ見ながらがんばれと言ってくれるが、私はそんな彼らに笑顔を返す余裕も無い。
どうやらここはマオイストの戦場ではなく、主にマオイストの家族が住んでいる地域らしく、それぞれの民家の前に石・倒木などを使って車両の通行を妨げていた。
何とも地道で迷惑な事をしてくれるもんだ。怒りのヤリ場が無いのでとりあえず「ジュチ!コノヤロー!」と彼に矛先を向けながら怒りをパワーに代えて歩く私。

初めは30分に1回の休憩を取っていたが、すぐに休憩は15分に1回となる。1kmごとに国境までの距離を刻んだ石があったので大体の距離の目安はわかった。計算によると、最初の4kmを進むのに1時間半くらいかかってしまった。ものすごいスローぺースだ。

ボーっと休憩をしていると、目の前を二人乗りのバイクが通り過ぎた。
どうやら車はダメだがバイクは通れるようだ。

「おいおいバス乗務員!それを早く言えよ〜!!金なら払うぞ〜!」
全身汗だくの男(私)は谷に向かって叫んだ。
しかし既に4kmも歩いている。今更引き返す気力も無い。そしてバイクは何故かみんな二人乗りしているので私の乗るスペースは無い。。

もしかしてこの徒歩区間専用の商売なのか?
だとしたらますますこの地区は日常的に不通になる地区なのだろう。

「ムムム、ジュチめー!」
ますます怒りのパワーを充電することにに成功。もうすぐ『怒力発電所』が開業できそうな勢いだ。

時間をかければ15kmは何とか歩けそうだが、問題は雨。
そう、ここは雨季真っ只中のネパール山中。一度降り出すと、日本の台風直撃時のような豪雨が襲ってくる。そんな雨にやられたらモバイラーの私は○○万円もの被害を被ってしまうのだ!
自称晴れ男(いつもアトヅケだが)の私は天に祈りながら歩き続ける。

5kmちょっと歩いたところで一緒に移動をしている女性パッカーが体調不良を訴えた。たしかに彼女はここ数日体調を崩していたので大変だろう。
6km程度歩いたところで15:30になってしまった。このペースでは夜になってしまうし、随分雲も多くなってきたので何とかバイクを捕まえ彼女だけでも先の町に行ってもらうことにした。

しかしバイクは常に二人乗っており、後部座席が空いたバイクはなかなか来ない。だが、しばらく待っていると反対側から現地人を乗せたリクシャー(自転車付きの力車)が現れた。

「リクシャーが1台居れば10台居ると思え!」まるでゴキブリを数えるような定義を勝手に作り、あたりを捜す。

数分後、日陰で休憩するリクシャを1台発見!
しかしここはマオイストの地域なので油断はできない。もしかするとこのリクシャーはマオイスト専用かもしれない・・・
警戒しながら運転手に話しかけ、次の町まで乗せてくれと尋ねる。

「OK」彼は簡単に答えた。どうやら普通のリクシャーらしい。
しかしすぐさま、「1,000ルピーだぜ」と言って来た。

幾らなんでも高すぎる!たかが10kmでポカラから国境までのバス代3人分より高い。この国の25歳前後男性の一般的月収は5,000ルピー程度なので、日本円に例えるとそれは3万円相当を意味するのだ。

我々は「そんな大金持って無い。全部で400しかないんだ。」
というと、あっさりそれでOKになった。私は「もっと少なく言うべきだった」と思いながらも、逃げられたら嫌なのでそれで合意する。二人乗車できるので私も一緒に乗り、ひとり200ルピー(320円)で割勘することにした。

もうひとりの日本人K君の重い荷物も一緒にリクシャーに乗せ15:45に出発。
それまでの苦労が嘘のようにリキシャーは快調に進む。しばらく進むと集落があり、そこには10台くらいのリキシャーが待機していた。
世の中上手く商売ができているもんだ。同時に私はさっきの格言に自信を持つ。1台いれば10台は固いのだ。

途中何度か坂道があり、何度か私も下車して後ろから車を押す。
中には10mを越す巨木が道を塞いでいる箇所もあり、リキシャーを横に倒しながら合間をぬってくぐり抜ける。
道に立ちはだかる巨木。マオイストの嫌がらせだ。



16:30無事目的の町ブトワルに到着。歩いてくるK君との約束で街道沿いの分かりやすい商店で待つ事にする。
途中からリキシャーを使ったとはいえ疲れはかなりあり、異常な暑さも手伝ってその時飲んだコーラはここ数年で一番美味しかった気がする。
 I always COKE !

周りの写真を撮っていると現地の子どもが集まってきた。デジカメが珍しいようだ。画像を見せて遊んでいると、いつの間にか我々の周りに20人くらいの人だかりが出来ていた。
カメラを向けるとはしゃぎ出す。

我々は一般人である。世界のナカタでもないし、マツイでもない。ただのサンポなのだ。
しかし人だかりはドンドン増えていく。
連れのKさんはトイレを借りる際、取り巻きを10名くらい引き連れてトイレへ向かった。

なんてのどかな処だろう。ここで1泊したい気持ちもあったが、明日は仏教発祥の地「ルンビニ」へ行く事に決めている。
17:30に合流したK君とともに宿泊地のバイラワへローカルバスで向かった。

何とか無事に済んだので良かったものの、マオイスト領地が安全とは決して言い切れるものではない。
今回は渋々強制トレッキングをしたが、本来はバス会社やそれを提供する代行業者がその危険性を事前に伝える義務があるはずだ。

ジュチは彼の宿をいわゆる『日本人宿』にしたいらしいが、今の姿勢ではまず無理だろう。彼が日常悪い奴ではなく、逆に好印象を与える人柄だけに残念だ。
私はあまった怒りのパワーで彼に抗議&改善のメールを送ったが返事はまだ来ない。
今後このルートを利用し、外国人旅行者がトラブルに巻き込まれない事を祈るばかりだ。

アンチ強制イトレッキング!歩くならヒマラヤを見ながらノンビリ歩きたーい!


 
2005年8月3日