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in ジャパン | ||
独り言 |
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今年の7月に30歳を迎えた。 以前に想像していたよりも頼りない30歳だが、振り返った20代にはそれなりに満足していた。 仕事に関しても最近は尊敬できる上司に恵まれ、内容にも興味が尽きず満足であった。 業界の未来に対する不透明感や将来の雇用に対する不安はあったが、特に仕事に疲れたとかストレスで病気がちな訳でもなくどちらかというと自分は「仕事人間」のジャンルに属する人間だと思う。 数字に追われた8年間であったが、達成感はあった。 旅行会社というのは体力的にハードな業界だが、自分の仕事は企画・営業・添乗のすべてを行うことが出来るマルチな営業職なので情報収集から始まり、実際に企画をした旅行に同行してその反響が旅行中タイムリーに反映される。 予算内でいい旅行を創ればその旅行は拍手で終わり、ちょっと儲けすぎたり手を抜いた物を創ると旅慣れた客から鋭い指摘を受けることもある。 入社3年目あたりから一発勝負で手を抜けない緊張感が楽しみに変わっていった。 添乗中のトラブルもそのひとつだ。 部屋に鍵を忘れてきたなどの簡単なものから病気・事故・盗難などその種類は様々だが、最近は多少不謹慎ではあるがトラブルを楽しめるようになってきていた。 旅慣れた客は添乗員のトラブル対処法でその良し悪しを判断する人が少なくない。逆にとらえると、トラブルをスムーズに対処・回避することで自分に対する達成感はより高いものになる。 トラブルに限らず、客がふと投げかけてくる質問の対処も同様だ。 おいしいレストランはどこだ?○○のバッグが買いたいんだけど?トイレはどっちだ?チップはいくらだ?・・・ 例を挙げればキリがないが、仕事をこなす度に「質問に速答したい」という欲求は高まっていく。 気がつくと情報収集がひとつの趣味になっていた。 ある観光地に行けば仕事を終えると夜な夜な周辺のホテル・旅館を見学し、自分の目で勝手にランク付けをする。 この旅館は受け答えがしっかりしている、ここは掃除の手を抜いている、写真よりだいぶ古い・・・などなど。 そして営業中に客からその観光地に対する質問があると、「このホテルはパンフレットでは○○だが、実際に見ると●●です。」という形で情報に付加価値をつける。 この作業の繰り返しが地道に自分の顧客を増やす方法だと信じていたし、現に年々数字は順調に伸びていた。 しかし、人間の欲求は尽きないものだ。そして世界は途方も無く広い。 大抵の客は、旅行会社の人間が世界中すべての観光地に精通していると信じて質問をする。だが実際そんなはずはない。 ほとんどの社員が、資料やパンフレットを読んだだけで観光地の説明をしているの。当然といえば当然だが、たまにやるせない気持ちになる。 営業職のような攻めの職種はその経験がひとつの重要な武器になる。しかし、実際は専門の添乗員職でない限り20代の営業マンがそんな沢山の観光地を見ているわけではない。 大抵の若手営業マンが「1度も行ってない所は2度行ったように話し、1度行った所は5度行ったように話せ」と上司から言われるものだ。 私も例外ではなくそうしてきた。初めは戸惑ったが慣れればそう苦でもない。 ただ、営業中に行った事のない場所の話を繰り返しているうちに「実際あそこはどうなんだろう?」という欲求は高まっていく。 以前から「死ぬ前に必ず行きたい場所リスト」を自分で作っていた。 学生の内はピラミッドやタージ・マハールなど30箇所位の場所だったが、この仕事を始めて案の定行きたい場所は増え続け、20代後半には100箇所を超えるまで増えていた。その中には仕事で行く事ができたり、有給休暇を消化し年に2・3回のペースで旅行をしていたので少しずつこなしてはいた。 しかし、今後のペースを計算してみると時間が全然足りない。このまま仕事を続ければ確実にこなせない数だ。行きたい箇所は偏狭地が多く含まれており、1箇所行く為に2週間以上掛かるところも含まれている。勿論会社がそんな休暇をくれる訳がないし、定年を過ぎて頭カチカチ体ヨボヨボになるまで取っておく気もしない。 この先の人生の事を考えていると益々未開の地に対する疑問が膨れてきた。 日本は世界から見たらどんな国なんだろう?日本を知らない人って多いのか?世界は幸せか不幸せか?日本食って世界で一番おいしいのかなぁ?・・・ そして決断をした。 30才までに結婚したい人がいれば、世界旅行の夢は諦める。 それはそれで幸せだ。 世界旅行なんてどうでもいい!とさえ思える人と若いうちにめぐり会う事が出来たのならば。 もしそのチャンスがなければ人生勉強の為、いや、自分の欲求を満たすために旅行しよう。 そして、あっけなく30を迎えた。 今思うと付き合ったら結婚してしまいそうな女性を避けていた気もするし、多趣味多忙なのでそんな時間もなかったような気もする。 何はともあれ30である。 世界旅行をしよう。 夢から決心に変わったのは親父の命日、30歳の誕生日から11日後の事だった。 仏壇の前で海外に一度も足を運ばなかった親父に報告をした。 「ちょっと地球見てくるわ。」 |
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